㉛スペイン(グラナダ)・・・カフェコンレチェとかけがえのない思い出

 2001/03/19

幸せな数日間だった。

ある日はアルハンブラ宮殿に行こうとチケットを買いに行った。チケット売り場は銀行の中にあるらしく、半信半疑で行くとビンゴ。なぜ銀行だったのか理由は分からないままだが、入場チケットは混雑を避けるためか行く時間まで指定されていた。2025年現在、アルハンブラ宮殿についてはネットで調べるのが一番いいかと思うのでここではあえて私の感想を書くことはしないが、あまりにもあまりにも素晴らしくて、この宮殿について当時の私は興奮気味にノート3ページにわたってぎっしり記録していた。


またある日はサイダから、グラナダという土地についてたくさんの話を聞いた。15世紀ごろにグラナダではイスラム教の王様の下でキリスト教やユダヤ教が共存し互いに影響を与え合っていたらしい。実はグラナダというのは「ザクロ」を意味する言葉らしく、諸説あるそうだが、いろんな宗派の人がうまく一つにまとまった街というのが、一つの殻にたくさんの粒が集まったザクロに似ていることから名付けられたとのこと。

そしてまたある時は、街歩きをして小腹がすいたらルトフィの店に行きみゆきさんと話し、夜は冷蔵庫のスペイン食材で和食を作ったり、突然私をルトフィとサイダが友人宅に連れて行ってくれたり。
外出先でイスラム教のお祈りの時間がやってくると、いつものマットを地面に敷いて、ルトフィの一歩後ろにサイダが立ってモスクの方を向き、二人の呼吸が一つになったように同時にお辞儀をし、膝をついてさらにお辞儀をする。太陽の位置でモスクの方角はすぐに分かるらしいが、私はこの二人がお祈りをするのを静かに眺める時間が好きだった。とても神秘的なものを見ている気がした。
(外出先でのルトフィとサイダ。とっても仲良し)


いよいよ3月20日にグラナダを去ることに決めた。この一週間の濃い時間を思うとずっとこのままここにいたくなるけれど、そんなわけにもいかない。ルトフィにもそう伝えて、何とか承知してもらえた。
18日の夜、寝ていたらなんとみゆきさんが私の寝室にやってきて「明日の朝一緒に出かけるからここで寝かせて」と私の隣で寝てしまった。そしてまだ夜とも言える真っ暗な朝5時、突然私とみゆきさんはサイダに起こされた。何が何だかわからないでいると
「下着の替えを持って!服の下にはこのTシャツとズボンを履くように」と服を渡されての指示。
もたもたと着替えていると、階下からルトフィの「早くー!」の声。外に出ると一台の車にルトフィとみゆきさんの旦那さんが乗ってて、サイダとみゆきさんと私の5人で出発。
いやまだ真っ暗だよ?
私「みゆきさん、どこに行くの?」
と聞くと、聞かれてもいないルトフィが「ドコニイクノ?」と。一同爆笑
私「真似しないでまじめに教えて!ルトフィ、もしかして私を売るの?」
ルトフィ「いや、カフェコンレチェ(cafe con reche)と交換してもらいに」
私「いや、安すぎやん!!」
一同さらに大爆笑

ルトフィ「で、どこに行くと思う?」
ノゾミ「どうせ私を市場で売るんでしょ」
ここでドナドナを誰かが歌いだして、世界共通であることに驚きながらも大爆笑で大合唱。おいおい!笑い事じゃないぞ!

着いたところは置き去りにされたらまず帰ることはできないであろう、何もない山奥。橋があり、川がある。あとは真っ暗。こんなところにわざわざ?
と思った時、目が慣れてきて見えたものは何と…
露天風呂!!!
川から湧き出た温泉水を引いたものらしい。えーーーーーーーーーーーーー!!!
まさかもまさかの展開。考えたこと無かったけど、露天風呂なんてスペインにもあるんだ!
みんなは上に着た服を脱ぎ、下に着た服のままドボン!私も借りて着たルトフィのTシャツと短パンのままドボン!湯舟なんていつぶりだろう?最高過ぎる!!
日本人の私とみゆきさんは湯舟の中で疲れをじっくり取ろうと座り直し、他の三人は「熱い熱い」とあっさり上がってしまった。
「喜んだらノゾミが朝食をおごる約束だよ」というルトフィに「何でもおごりたい気分よ!」という私。日本人は温泉が好きだからってことで、みんなでサプライズで計画してくれたらしい。もう本当に嬉しい!大好き!

温泉から出て、カフェまで移動してカフェコンレチェとトーストでみんなで朝ご飯。「おごるよ!もっと注文して!」とカッコよく伝えたいんだがなかなかどうにも。スペイン語ができたらなあ…そんなことを言ってる間に、ルトフィが朝食代を支払ってくれていた。
「口が悪いけど、絶対に人にお金を出させないのがルトフィなのよ」とみゆきさんが言う。



みんなの愛が温泉以上に温かくて、一生忘れられない思い出となった。

早朝からの思いがけない入浴で夢心地で帰宅。ルトフィやみゆきさんは仕事に向かい、私とサイダは仲良く二度寝した。数時間後に目を覚ましてテラスに行くと、私の気配にいつものネコがやってきて背中を撫でながらパンをかじった。

そんな夢のような時間も今日まで。
ネコがどこかに行ってしまうと私は歩いてグラナダ駅に向かった。
この駅でウラノさんと出会い、市村さんの乗る車に乗せられて今がある。遠い過去を思い出すように駅を眺めた。なんだか初めて来た場所のように思えた。旅先ではいつもそうだ。到着と出発は違う駅に感じられる。今回は特にそう感じられた。
そして、
ついに、
私は明日のバルセロナ行きの夜行列車を予約した。