2001/01/26
6:57ブルージュ発の列車に乗り込んで、翌朝8:00アイルランドの首都ダブリンに到着するまでの約25時間の記録となります。
早朝。ルームメイト達が寝静まっている中、そっと身支度を整えて部屋を出ようとした時に、昨夜一緒に飲んだペルー人マリアが静かに挨拶してくれた。数時間前に会ったばかりだけど、わざわざ起きて旅立つ私にそっと声をかけてくれたことが本当に嬉しくて、一期一会とはこのことだなと思った。彼女の旅も素晴らしいものでありますように。
街全体がまだ寝ているかのように静かで、この地をこの時間に離れることが惜しい気すらする。さよならブルージュ。港町オーステンドまでゆっくり車窓を楽しむ。
そう。私は今からこの大陸からドーバー海峡を渡ってイギリスに行き、そこからさらに北上してさらにさらに海を渡ってアイルランドを目指すのだ。港町オーステンドに着くと、町の静けさとは一変してドーバー海峡渡る船のチケットを購入する人達でごった返していた。私もその列に並び、イギリス行きの片道チケットを購入する。
購入後、船乗り場まで来てふとチケット売り場に往復割引の金額が書いてあったのを思い出した。往復だと安かったな。いや、だとしても片道チケット高すぎんか???ユーレイルパス持っていたら割引になるという情報もあった。考えれば考えるほど解せない。こちらは貧乏旅行で10円だって深刻に考える身だ。たまたま隣にいた黒人のおじさんにチケット代について尋ねた。「確かに高いね」という言葉がまるでロケットの発射スイッチのように、私はチケット売り場へ全速力で戻って訊ねた。しかし、私の英語力ではなかなかうまく説明できず、売り場のおばさんにキレられた。再び全速力で黒人のおじさんのところに戻り、おじさんに「あなたは私の言いたいこと理解できるよね??ね?説明してよ!」と無茶振りしたら一緒に売り場に戻ってくれて再交渉。しかしまあ、これが間違いではなく通常の価格だという。筆談でやり取りしてもらったけどチケット売り場のおばさんの筆圧で察していただきたい。「いい加減にして!」と2人揃ってガチギレされた。涙

完全に負け犬状態で船に乗り込む。おじさんごめん。おじさんはガーナ人で名前はソロモン。「日本にはガーナチョコってのがあるんだよ」って伝えたら「ホントに!?」って喜んで意気投合。ソロモンはベルギー人の奥さんの実家に行ってたらしく、これからロンドンでパソコンを買うんだって。短時間の船旅の相手が優しい人でよかった。海を渡り、うっすらとイギリスが見えてきた。なんか感動!さっきまでのイヤなこと、ドーバーの白い崖見たら全部忘れてめっちゃテンション上がった!ソロモンに「本当に"white cliff"は白いんだね!」と言ったらいろいろ教えてくれた。ん?チョーク?チョークってなんだ?ああ!ソロモン、確かに学校で白い崖は石灰岩って習った気がするよ。白い崖はチョークでできてるってことなんだね。このドーバー海峡で16世紀に海戦があったのかと思うと、今乗っている船がまるでスペインの無敵艦隊のようにすら思えてきたよ!こうして海からイギリスという国を見た兵士たちは何を思ったんだろうね!……なーんて聞き上手のソロモン相手に興奮していたら、すっかり両替するのを忘れてイギリスに到着してしまった。ああああ、このドーバー駅からロンドンまで移動するお金が無い!!両替する場所もない!!
ソ…ソロモン…。しどろもどろ事情を説明したらにこやかに切符を買ってくれた。「ロンドンのヴィクトリア駅に着いたら必ず切符代を返します」と伝えたら「気にするな。ノゾミが両替を済ませて、アイルランド行きのバスのチケットを買って、バスを待つだけの状態になったら僕は行く。それまではきちんと見守るから」と。いやいや!そこまでさせるつもりはない。するとソロモンは続けてこう言った。
「僕がかつてナミビアを旅した時にお金が足りず困っていた時、隣にいた人が助けてくれたんだ。旅人を助けることは特別なことではない。僕がいなくてもきっと誰かが君を助ける。」
「やっとナミビアで受け取ったバトンを誰かに渡すことができた。ノゾミも困ってる人がいたら親切のバトンを繋いであげてほしい。」
もう泣くのをこらえるのに必死。何度だってバトンを渡そう。約束します。結局、ソロモンは本当に私がバスに乗る準備が整い、バーガーキングでお腹を満たすまで傍にいてくれた。そして自分が食べ終わると笑顔で「良い旅を」と言ってさっと店を出て行ってしまった。ソロモンが目の前からいなくなって急にポテトが冷えてしまった気がした。
(こちらがソロモン。帰国後、彼から宗教勧誘のメールがめっちゃ来てた。笑)
そしていざ、ロンドンはヴィクトリア駅近くにあるバスセンター(コーチステーション)から高速バスに乗り込んだ。かくかくしかじか24年後の今年2025年、まさか娘と一緒にこの場所に来て、留学する娘が乗るバスを見送ることになるとは夢にも思わなかった。この話はインスタには書いたが、ここではまたいつか。
バス車内の狭さに驚き、トイレもついてない空間で9時間だと…。若さでどうにか乗り切ったが、今の私じゃ絶対無理だろうな。途中リヴァプールでフェリーに乗ってアイルランドへ渡り、翌朝8時、さすがにヘトヘトに疲れた状態でアイルランド上陸した。
実は、アイルランドには脱サラした父謙二がいるのである。連絡取れてないけど、久しぶりの父娘再会できるのだろうか。果たしてどこに行けばいいのだろうか。