朝、ダブリンへ発つフランシスコと一緒に朝食を取り(念のため書きますが、昨夜宿に戻ってから朝食までは当然別室にいました笑)、彼をバスステーションまで見送った。しかしまぁ、スペインなまりの英語は難解だった!Mountain(山)をマウンテンと発音する日本人に対し、ホウンテインと発音するスペイン人。私の言葉もどこまで理解してもらえていたことか。
さて、旅人たちからの情報でキラーニー国立公園を廻るには徒歩では無理で、レンタサイクルあるから借りた方がいいとのこと。出費は痛いが仕方ない。普段、職場までチャリ通勤だったのでホウンテインバイクいやマウンテンバイクにもすぐに慣れた。インフォメーションでもらった国立公園の地図を片手に時計回りで走り出す。天気はあまり良くなかったものの、逆にしっとりとした雰囲気がとても美しく見えた。
こんなに雄大で美しい景色を見たのは初めてのことで、心震えるほどに感動した。そして道がオフロードになるほどに、これまでのチャリ歴が生かされるぜ!と張り切っていた。
阿蘇と九重をまとめたらこんな感じになるのかななんて思いながら、美しい景色を見ながら持ってきたスコーンでランチ。その後ゆるゆると景色を眺めながら運転してたら、雨が降り出した。既に結構な距離を来ていたので、地図を見る限り引き返すよりも先に進んで宿に戻ろうと判断。ざっくりと描かれた地図を頼りに進んでいくと地図には載っていない道が現れ、自分の勘に頼るしかなくなり、信じて突き進むといきなり道にフェンスが掛かっていて進めない。私道とも思えないしフェンスの先には道が続いているのに何故ここにフェンスが? この時の私はまるで何者かに洗脳されたかのように先に進むことしか考えられず(いや、戻れよ)、チャリを担いでフェンスを乗り越え(その時点で疑え)、無理やり進むがその道はやがてけもの道となり、道無き道を突き進むことに。雨はますます激しくなった。そういえば、随分前から家も人もない。そして次に目の前に現れたのは川。いや、沼地と言うべきか。うーん。これってなにかのドッキリかな?さっきまでオフロード楽しんでたどころの話じゃない。しかしね、あのねもうね、引き返す気力もない。またしてもチャリを担いで意を決して沼地に入る。深かったらどうしよう。お母さんごめん。こんな事になってるよ私。完全にコースアウトしてるのを認めざるを得ない。迷ってる。私、道に迷ってる。
ところが!
沼地を渡りきって、チャリを押しながら藪の中をしばらく行くとなんと道路を発見!ラッキー!全ての道はローマに通ず。いやまあ、アイルランドは島国なのでローマには行けないにしても全ての道は宿には通ず。しかし果てしなく続く登り坂に気が遠くなる。元バレー部、体力には自信があるもののあまりにも心細く、心折れそうになる。突然目の前に現れた羊にビックリしつつも仲間意識を覚え、声を掛ける。どこにいくのー?
え!!待って!1人にしないで😭
逃げないで!!!お願い!
また1人になってしまった。車が通ればヒッチハイクをしようと思っていた。しかし全く通らない。世界に1人取り残されてしまったのではないかと思う。当時、猿岩石(有吉弘行のコンビ)がヒッチハイクしたりめちゃくちゃなことを仕掛けるTV番組「電波少年」が流行ってたんだけど、勝手に自分もその世界に入り込んでしまったような気になって、何度も大声で「ギブアップ!」「もう無理!」と叫んだ。スタッフがカメラ持って茂みから出てきてくれたらどれだけ嬉しかっただろう。しかしそんなわけもなくただただチャリを押して雨の中、山道を登るだけ。ひたすらひたすら、ただひたすら「ギブアップ」と言いながらギブアップできずに無心で山道を登る。何時間も登ったところで小さく「てっぺん」的な英語の看板が立ってて、その先は下り坂になっていた。
うおーーーー!!!!!!!
言葉にならない言葉を叫びながら、下り坂を全速力で漕いで漕いで、雨なのか涙なのか分からないビショビショに濡れた顔でひたすらペダルを踏み続けた。ベートーベンの「苦悩を突きぬけ歓喜にいたれ」の言葉がよぎる。歓喜とはこのことか!!!まるで悟りでも開いたかのように開眼して、日が暮れた後に宿にたどり着く。今思えばすごい形相で宿に入ったのだろうな。
皆が各々夕食準備していた食堂で、私の姿を見た一人が「ノゾミは一体どこに行ってたの?」と聞いてきたので、手に持ってた地図(画像)を見せて大まかなルートを説明したら、全員「Oh!!No!!!」ありえないわ!とざわめく。そして、沼地と思ってたところは湖で、チャリごと船で渡るのが正解だったらしい…。
誰かが「ノゾミのチャレンジと無事に帰還したことに乾杯!」と言ってその場にいる全員が私のために「乾杯!!」とグラスを掲げてくれて、なんというかもう、こんなチャレンジするつもりも無かったんだけどね、なんならこんな経験したくなかったんだけど…と、嬉しいような恥ずかしいような気持ちで私も渡されたグラスを掲げた。
雨に打たれてボロボロの地図は今となっては宝物。そしてこんな雑な地図をよく頼ったものだと若かりし頃の自分に呆れるばかりだ。